アイデアはとてもシンプルだ。とんがりビルに8日間、写真家が滞在して、この界隈の路上で道行く人々のポートレートを撮影し、翌日にはプリントアウトして貼り出す。展示する写真は、すべて黒バックのポートレートで、オープニングの段階では、壁面はほとんど真っ白かもしれない。日を重ねるごとに作品が増えていく〈現地制作〉の〈即展示〉と、構造はシンプルだが、ここで僕らが描こうとしているストーリーは、そう単純でもない。
まず場所。とんがりビルがある山形市七日町の通称「シネマ通り」には、かつて7つの映画館が立ち並んでいたが、今は全て廃業して取り壊されて跡形もない。「シネマ通り」の活況は、当時を知る世代のノスタルジーにしかなく、エドワード・ホッパーが描いた黄昏のような2017年9月現在のこの通りから、かつてのシネマ・パラダイスを想像することは難しい。ここは商業映画に見捨てられた街区なのだ。
次に期間。撮影をおこなう10/5~12日の8日間は、シネマ通りを含むこの界隈で「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」が開催され、世界各地から映画関係者が集結する(映画館は消えたのに、映画祭は続いているなんて奇妙な話だ)。とんがりビルも上映会場になるため、ここで撮られ、貼り出されるポートレートは、山形にも東北にも帰属しない、旅するドキュメンタリストたちが、その多くを占めるだろう。
そして写真家は、ワタナベアニである。福島・パリ・東京の路上で、アニさんが活写した市井の人々のポートレートを見た。とても優美な写真だ。みんないい顔で写真におさまっている。優れた写真家は、ありふれた人や街にファインダーを向けていても、目に見えないものを捉えようとしている。だからこれらも、普通のポートレートであるはずがない。アニさんは、プロのファッションモデルを素人のように撮り、素人をファッションモデルのように撮る。路上で、デイライトで、ほんの数秒間で撮られているはずなのに、彼らはみんな通行人Aを演じる、プロの俳優のように見える。
映画館の消えた街で、映画の祭典が催される8日間だけ、幻のように復活する「シネマ通り」は、山形にあって山形ではない、架空の場所のようだ。そこで生まれるフェイクとリアルが綯い交ぜになったストーリーを、一本の未生の映画として描くことはできないだろうか? 実はアニさんと僕はそんな、シネマ通りを舞台にした映画の制作を夢想しはじめていて、この写真展「シネマ通り」は、そのプロローグである。(企画:宮本武典)
開廊時間:11:30~21:30/会期中無休
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ワタナベアニ/Ani Watanabe
1964年横浜生まれ。写真家・アートディレクター。ライトパブリシティ勤務を経て、1999年「NINJA FILMS」設立。アートディレクターとして、「45R」「HENRY CUIR」などのグラフィックデザイン、アートディレクションなどを手掛ける。2006年より写真家としての活動をスタート。雑誌・ファッションカタログを中心に活動。
watanabeani.com
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プログラム
|10/6・金|
17:00~20:00
「ヤマガタ・ラフカット!」
発表者:ドゥウィ・スジャンティ・ヌグラヘニ(インドネシア)、歌川達人(日本)(同通付)
20:00~22:00
交流パーティー
|10/7・土|
14:00~16:00
佐藤真特集1|トークイベント「『阿賀に生きる』とヤマガタ」
出演:旗野秀人(『阿賀に生きる』仕掛け人)、小林茂(『阿賀に生きる』撮影)、桝谷秀一(YIDFF理事)、倉田剛(「山形映画祭を味わう」著者)
※YIDFF’91での『阿賀に生きる』ラッシュ上映時の記録映像編集版(Hi8撮影/HD/23分 撮影:桝谷秀一/構成・編集:川上拓也)の上映付き
17:00~20:00
「ヤマガタ・ラフカット!」
発表者:ジェフリー・ポー(フィリピン)、奥谷洋一郎(日本)(同通付)
20:00~22:00
交流パーティー
|10/8・日|
14:00~16:00
佐藤真特集2「トークイベント/海外から見た佐藤真」
登壇:マーク・ノーネス(ミシガン大学教授)、秋山珠子(立教大学講師)
19:00~21:00
佐藤真特集3|「エヴェレットゴーストラインズ Ver.B『顔』山形特別版 上演」(演出=村川拓也)
21:00~22:00
交流パーティー
|10/9・月祝|
10:30〜13:30
「ユース・ラフカット!」(登壇者未定)
14:00~16:00
佐藤真特集4「トークイベント/佐藤真に出会う新世代」
登壇者:川崎那恵(冥土のみやげ企画)、小森はるか(映像作家)、和島香太郎(映画監督)、岡本和樹(映画監督)、我妻和樹(『願いとゆらぎ』『波伝谷に生きる人びと』監督)、川上拓也(編集・録音)、石田優子(映画監督)、小谷忠典(映画監督・武蔵野大学客員教授)、小林知華子(冥土のみやげ企画)、小田香(映画監督)、林健太/司会:清田麻衣子(編集者、『日常と不在を求めて』発行人)、秦岳志(編集・本プログラムコーディネーター)
18:00~20:00
ワタナベアニスライドショー&トーク
20:00~22:00
交流パーティー
※内容と日時の詳細、入場料の有無については、映画祭期間中に発行される最新タイムテーブルもしくはYIDFF公式ウェブサイトをご確認ください。
YIDFF事務局
023-666-4480
info@yidff.jp
http://www.yidff.jp/home.html
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ワタナベアニ写真展「シネマ通り」
会期:2017年10月5日[木]→12日[木]11:30~21:30(会期中無休)
会場:とんがりビル1F(nitaki、KUGURU)
〒990-0042 山形県山形市七日町2-7-23
企画:宮本武典+akaoni、山形国際ドキュメンタリー映画祭事務局
企画協力:nitaki、東北芸術工科大学
主催・お問合せ:株式会社マルアール
Tel. 023-679-5433
Mail. info@maru-r.co.jp
※専用駐車場はございません。近隣の有料駐車場などをご利用いただきますようお願いいたします。
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